羽生善治名人(38)に郷田真隆九段(38)が挑む第67期名人戦七番勝負(毎日新聞社、朝日新聞社主催、大和証券グループ協賛)は9日、東京都文京区の椿山荘で開幕する。昨年、通算5期目の獲得を果たして十九世名人の資格を得た羽生と、2年ぶり2度目の挑戦で初の名人位を目指す郷田。過去5回、タイトルを争った同世代のライバルだが、名人戦で対決するのは初めてだ。羽生が“マジック”と評される指し回しで郷田を翻弄(ほんろう)するか。“剛直流”“一刀流”などと呼ばれる郷田が羽生を打ち倒すか。いずれにしても白熱の好勝負が期待できそうだ。【山村英樹】
昨年の名人戦で羽生に敗れた森内俊之九段と同様、郷田も羽生と同じ学年。子供のころからプロ棋士の養成機関・奨励会で、しのぎを削ってきた間柄だ。
少年時代の郷田について、羽生は「積極的で攻撃的な将棋を指していました」といい、「それは今でも変わっていないと思います」。ただ、郷田は一時、「風車戦法」(中飛車に構えて相手の攻めを待ち、千日手も辞さない指し方)を愛用した。「棋風と全く合っていない戦法を指しているなあ、という記憶がなぜか残っています」
一方、羽生の少年時代について、郷田は「初めて会った時から強かった。実戦派の印象がありました」と語る。その印象は今も変わっていない。「風車戦法」のことも覚えていて、「当時の流行戦法でしたが、私が指すと、羽生さんや森内さんは『しめしめ』と笑っていた気がします」。
羽生は15歳、郷田は19歳で棋士になった。郷田は92年、谷川浩司九段から王位を奪った。93年に挑戦してきたのが羽生で、郷田から王位を奪取。94、95年は郷田が挑戦者となったが、羽生が防衛した。当時はともに20代前半。そんな若手が同じタイトル戦で3年続けて戦ったのは異例で、両者の“早熟の天才”ぶりがうかがえる。
98年の棋王戦も、羽生が勝利を収めた。だが、01年の棋聖戦では、郷田がついに羽生を破った。2人がタイトル戦で対決するのは、それ以来8年ぶりだ。
郷田は棋士のだれもが認める実力のわりに、今ひとつタイトル戦との縁が薄かった。元々、将棋の真理を追究しようとするタイプで、序盤に大長考して早い段階で秒読みに追い込まれ、勝ちを逃すことも。だが、最近は時間の使い方を工夫するようになってきた。
一方、羽生は若いころから勝負師ぶりを発揮してきた。しかし、年を重ねるにつれ、真理を追究する姿勢が目立つように。羽生と郷田のスタイルは、近づいてきていると言えるかもしれない。
郷田は07年の名人戦で、森内に3勝4敗で惜敗。とはいえ、最も持ち時間の長い2日制の対局は自分に合うと実感したようで、強い自信を持っている。
羽生は08年の竜王戦で渡辺明竜王に3連勝したあと4連敗し、「永世7冠」を逃した。だが、今年の王将戦では、苦手としていた深浦康市王位を4勝3敗で降し、5連覇を達成。いい気分で名人戦に臨んでくるはずだ。
◇正々堂々、自分の将棋を−−羽生善治名人
今期のA級順位戦は大混戦で、密度の濃い戦いが繰り広げられました。その中で、郷田さんは余裕を持って指している印象がありました。2勝2敗から5連勝して挑戦者になったのは、さすがだと思いました。
私の調子はまずまずではないでしょうか。名人戦では、ありきたりの将棋にならないように、一ひねりした将棋を指したいと思っています。基本的に、私は相手を分析するよりも、自分の将棋に重点をおいています。
郷田さんとのタイトル戦は久しぶりで、以前の印象とは違うと思います。持ち時間の長い将棋には自信を持たれているようです。私も今までとは一味違うカラーを出して、正々堂々と向かっていきたいと考えています。
◇条件有利、伸び伸び指す−−郷田真隆九段
A級で2連勝したあと2連敗した時点では、残留争いをしなければいけないのか、とも思いました。しかし、森内さん(俊之九段)との7回戦で逆転勝ちできたのが大きかったと思います。
3月半ばまで8連勝するなど、自分の調子はいいと思います。若いころは将棋を極めるため、一切の妥協を許さない気持ちが強かったのですが、自分の中ではだいたい極めたつもり。今はリラックスして対局することを優先しています。
羽生さんとのタイトル戦は久しぶり。弱点がなく、いかにして勝負に勝つかという面では、すごい資質を持っていると思います。ただ、各9時間持ちという条件では、自分の方が有利。伸び伸びと指したいと思います。
◇毎日jpで速報
インターネットによる実況中継は「名人戦棋譜速報」(http://www.meijinsen.jp/=有料)で。無料の速報は「毎日jp」でご覧になれます。
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◇第1局◇
4月9、10日
東京都文京区「椿山荘」
立会 谷川浩司九段
解説 三浦弘行八段
協力 藤田観光
◇第2局◇
4月21、22日
熊本市「熊本城」
立会 加藤一二三九段
解説 高橋道雄九段
協力 九州電力
後援 熊本市、熊本朝日放送、熊本放送、熊本青年会議所
◇第3局◇
5月7、8日
広島県福山市「福寿会館」
立会 有吉道夫九段
解説 山崎隆之七段
後援 福山市
◇第4局◇
5月20、21日
和歌山県高野町「金剛峯寺」
立会 内藤国雄九段
解説 松尾歩七段
後援 和歌山県、高野町、金剛峯寺、南海電気鉄道
◇第5局◇
6月2、3日
秋田市「秋田キャッスルホテル」
立会 島朗九段
解説 豊川孝弘七段
後援 秋田市
◇第6局◇
6月15、16日
京都市下京区「東本願寺」
立会 大内延介九段
解説 畠山鎮七段
後援 京都市
◇第7局◇
6月23、24日
愛知県豊田市「ホテルフォレスタ」
立会 石田和雄九段
解説 先崎学八段
協力 トヨタ自動車
後援 豊田市
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◇両者の対戦成績◇
郷田真隆九段 羽生善治名人
〇 92年棋聖戦 ●
● 王将戦 〇
● 93年<王位戦>(1) 〇
● <王位戦>(2) 〇
● <王位戦>(3) 〇
● <王位戦>(4) 〇
〇 日本シリーズ ●
● 将戦 〇
● 94年<王位戦>(1) 〇
● <王位戦>(2) 〇
〇 <王位戦>(3) ●
〇 <王位戦>(4) ●
〇 <王位戦>(5) ●
● <王位戦>(6) 〇
● <王位戦>(7) 〇
〇 日本シリーズ ●
● 王将戦 〇
● 王将戦 〇
〇 95年<王位戦>(1) ●
〇 <王位戦>(2) ●
● <王位戦>(3) 〇
● <王位戦>(4) 〇
● <王位戦>(5) 〇
● <王位戦>(6) 〇
● 王将戦 〇
〇 97年棋聖戦 ●
● 98年<棋王戦>(1) 〇
〇 早指し戦 ●
● <棋王戦>(2) 〇
〇 <棋王戦>(3) ●
● <棋王戦>(4) 〇
● 竜王戦 〇
● 勝抜戦 〇
● 99年早指し戦 〇
● 00年A級 〇
● 01年<棋聖戦>(1) 〇
〇 <棋聖戦>(2) ●
〇 <棋聖戦>(3) ●
● <棋聖戦>(4) 〇
〇 <棋聖戦>(5) ●
● 02年勝抜戦 〇
● 王将戦 〇
● A級 〇
● 王将戦 〇
● 04年朝日オープン 〇
● 王将戦 〇
〇 05年竜王戦 ●
● A級 〇
〇 06年A級 ●
● 07年竜王戦 〇
〇 A級 ●
● 08年棋聖戦 〇
● 09年王位戦 〇
通算は羽生の36勝17敗
(<>内はタイトル戦、カッコ内数字は局順)
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◇名人戦の戦績◇
(カッコ内数字は持将棋)
期 年 優勝者 相手
[1]1937 木村義雄 (2位・花田長太郎)
[2] 40 木村義雄 4−1 土居市太郎
[3] 42 木村義雄 4−0 神田辰之助
[4] 木村義雄 挑戦資格獲得者なし
[5] 木村義雄
[6] 47 塚田正夫 4−2(1)木村義雄
[7] 48 塚田正夫 4−2 大山康晴
[8] 49 木村義雄 3−2 塚田正夫
[9] 50 木村義雄 4−2 大山康晴
[10] 51 木村義雄 4−2 升田幸三
[11] 52 大山康晴 4−1 木村義雄
[12] 53 大山康晴 4−1 升田幸三
[13] 54 大山康晴 4−1 升田幸三
[14] 55 大山康晴 4−2 高島一岐代
[15] 56 大山康晴 4−0 花村元司
[16] 57 升田幸三 4−2 大山康晴
[17] 58 升田幸三 4−2(1)大山康晴
[18] 59 大山康晴 4−1 升田幸三
[19] 60 大山康晴 4−1 加藤一二三
[20] 61 大山康晴 4−1 丸田祐三
[21] 62 大山康晴 4−0 二上達也
[22] 63 大山康晴 4−1 升田幸三
[23] 64 大山康晴 4−2 二上達也
[24] 65 大山康晴 4−1 山田道美
[25] 66 大山康晴 4−2 升田幸三
[26] 67 大山康晴 4−1 二上達也
[27] 68 大山康晴 4−0 升田幸三
[28] 69 大山康晴 4−3 有吉道夫
[29] 70 大山康晴 4−1 灘蓮照
[30] 71 大山康晴 4−3 升田幸三
[31] 72 中原誠 4−3 大山康晴
[32] 73 中原誠 4−0 加藤一二三
[33] 74 中原誠 4−3 大山康晴
[34] 75 中原誠 4−3(1)大内延介
[35] 76 中原誠 4−3 米長邦雄
[36] 78 中原誠 4−2 森〓二
[37] 79 中原誠 4−2 米長邦雄
[38] 80 中原誠 4−1(1)米長邦雄
[39] 81 中原誠 4−1 桐山清澄
[40] 82 加藤一二三 4−3(1)中原誠
[41] 83 谷川浩司 4−2 加藤一二三
[42] 84 谷川浩司 4−1 森安秀光
[43] 85 中原誠 4−2 谷川浩司
[44] 86 中原誠 4−1 大山康晴
[45] 87 中原誠 4−2 米長邦雄
[46] 88 谷川浩司 4−2 中原誠
[47] 89 谷川浩司 4−0 米長邦雄
[48] 90 中原誠 4−2 谷川浩司
[49] 91 中原誠 4−1 米長邦雄
[50] 92 中原誠 4−3 高橋道雄
[51] 93 米長邦雄 4−0 中原誠
[52] 94 羽生善治 4−2 米長邦雄
[53] 95 羽生善治 4−1 森下卓
[54] 96 羽生善治 4−1 森内俊之
[55] 97 谷川浩司 4−2 羽生善治
[56] 98 佐藤康光 4−3 谷川浩司
[57] 99 佐藤康光 4−3 谷川浩司
[58]2000 丸山忠久 4−3 佐藤康光
[59] 01 丸山忠久 4−3 谷川浩司
[60] 02 森内俊之 4−0 丸山忠久
[61] 03 羽生善治 4−0 森内俊之
[62] 04 森内俊之 4−2 羽生善治
[63] 05 森内俊之 4−3 羽生善治
[64] 06 森内俊之 4−2 谷川浩司
[65] 07 森内俊之 4−3 郷田真隆
[66] 08 羽生善治 4−2 森内俊之
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■人物略歴
◇はぶ・よしはる
85年、プロ入り。89年、初タイトル。96年、7冠全制覇。タイトル獲得は計72期。六つの永世称号を持つ。
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■人物略歴
◇ごうだ・まさたか
90年、プロ入り。92年、初タイトル(当時四段で、史上最低段位での奪取)。タイトル獲得は計3期。