JT将棋日本シリーズの北陸・信越大会(北國新聞社、日本将棋連盟主催、JT協賛)は二日、七尾市の七尾サンライフプラザでプロ公式戦二回戦第二局が行われ、先手の郷田真隆九段が終盤、百十七手で反則の二歩を放ったため、後手の佐藤康光JT杯覇者が勝利した。二十七年の歴史を持つ同シリーズで初という珍事に、会場の将棋ファンからは「まさか」と
どよめきが上がった。
「生まれて初めて(二歩を)打っちゃった。自分が二歩を打つなんて全く考えていなかった」。局後の感想戦で、郷田九段は悔しさをにじませた。
郷田九段は佐藤JT杯覇者と同期で一九八二(昭和五十七)年、プロ養成機関の日本将棋連盟奨励会に入り、四段の時に王位を獲得、棋聖二期を務めた。持ち時間各十分のJT将棋では過去に三連覇を果たすなど、早指し戦でも非凡な才能を発揮し続けてきた。
今回の対局は終盤まで郷田九段優位で進んだ。大盤解説に立った橋本崇載(たかのり)七段(小松市出身)が「必勝形」と評する体勢を整えたところで、追い詰められた佐藤JT杯覇者が死中に活を求める勝負手を放った。
百八手目の7三玉。玉の上部脱出を図る手である。必殺の構えをかわされ、郷田九段は感想戦で「頭の中が真っ白になった」と振り返った。
後手玉は7筋から8筋、9筋へと逃げていく。秒読みに追われる中、なお前へ出る佐藤JT杯覇者の「強気」が二歩を誘発する格好となり、郷田九段は9三の歩に気付かず、9六歩と着手。会場から驚きの声が起こり、
幕切れとなった。
熱戦の行方を見守っていた初見(はつみ)清さん(63)=七尾市=は後手玉の粘りに感銘を受けたと振り返り、「やっぱりプロでも周囲が見えなくなることがあるんですね」と話した。
勝者となった佐藤JT杯覇者は「難しい将棋で、全力を出すことができた。多くの皆さんに楽しんでいただけたのではないでしょうか」と話した。佐藤JT杯覇者は十月八日に名古屋市で行われるプロ公式戦準決勝第一局に進出し、森下卓九段と対戦する。
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意外な結末。
多くの皆さんに楽しんでいただけたのではないでしょうか。